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事例|フジ住宅株式会社 ~IBM i連携を重視し、AutoMateに切り替えて開発を加速

RPAによる業務自動化で平均73%の時間削減効果を達成する企業の手法と取り組み
RPAによる業務自動化に全社一丸となって取り組むフジ住宅。
そこには経営層・マネージャー・現場開発者らの熱い思いと取り組みがある。
平均73%の業務時間削減率と1000時間以上の余力化を達成している同社の取り組みをレポートしよう。

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本 社:大阪府岸和田市
創業:1973年
設 立:1974年
資本金:48億7206万円
売上高:1157億円(2019年3月、連結)
従業員数:1174名(パート社員を含む。2019年3月、連結)
事業内容:分譲住宅事業・住宅流通事業・土地有効活用事業・賃貸および管理事業・注文住宅事業

https://www.fuji-jutaku.co.jp

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働き方改革やテレワーク推進、
健康経営に取り組む 

 

大阪府岸和田市に本社を置くフジ住宅は、大阪府下を中心に阪神間、和歌山市内で「住まいのトータルクリエイター」として住宅・不動産事業を幅広く展開する企業である。

2019年3月期の決算は、売上高が前期比11.4%増の1157億円、当期純利益が同3.1%増の42億円で、この10年間に売上高で約2.5倍、金額ベースで約700億円増という高成長を遂げてきた。大阪府の住宅着工棟数の総合ランキングでは3年連続で第1位、13年連続でトップ3に輝く。

その一方、同社は、働き方改革やテレワークの推進、従業員の健康管理に経営視点から取り組む「健康経営」の企業としても知られる。昨年(2018年)11月には総務省の「テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」を受賞、今年2月には経済産業省の「健康経営銘柄2019」と「健康経営優良法人2019 大規模法人部門(ホワイト500)」に選定されている。「健康経営銘柄2019」は2年連続3回目、「健康経営優良法人2019 大規模法人部門(ホワイト500)」は3年連続の選定である。

 

業務品質向上と働き方改革に
RPAはぴたりとはまる

 

同社のRPAに対する取り組みは、実はこの業績と働き方改革、テレワーク推進、健康経営に密接に関わっている。

「競争の激しい住宅・不動産市場において他社よりも優位に立つためには、何よりもスピードとお客様の満足を得られる業務の品質が求められます。当社ではそれを実現するために、全業務でリードタイムの短縮を目標に掲げ、働き方の観点で従業員個々の事情に合った仕事の仕方ができるよう残業の削減などに取り組んでいます。RPAは、手動で行っている作業を自動化するツールですが、当社のこの2つの目標にぴたりとはまるソリューションだと考えています」と語るのは、システム室の杉本洋介室長である。

 

杉本 洋介 氏  システム室 室長

 

RPAについては、日本で話題になり始めた2015年から注目していたが、実際にツールを導入したのは2017年9月である(当初は別のRPAツールの採用を念頭に調査を進めた)。そして導入したツールを使いロボットを複数開発したが、「はかばかしい成果が得られない」(杉本氏)との理由により、利用をいったん保留にすることにした。導入から約半年後のことである(本稿ではそのツールを「Aツール」と呼ぶことにする)。

「Aツールで自動化を試みた業務が、IBM iからデータを取得したり、IBM iの画面に遷移して処理を行うといったIBM i絡みのものが多く、そのあたりの機能が弱いとの判断が、Aツールの利用を保留にした理由です。またベンダーのサポートもよくなく、当方からの問い合わせに対して回答がしばらくこないなどレスポンスが悪かったことも保留の理由の1つでした」(杉本氏)

同社は、システム/36以来の30年以上に及ぶIBMミッドレンジ機のユーザーである。1990年にAS/400に切り替えて以降は、ビジネスの拡大に合わせてシステムを順次構築・拡充し、現在ほぼすべての業務システムをIBM i上で稼働させている。そのためRPA化の対象となる業務もIBM iに直接関連するものが少なくなく、それが、同社がRPAツールのIBM i連携機能を重視する理由である。

 

社内に浸透させるには
トップの理解が力になる

 

Aツールの代わりとして新たに導入したのは、三和コムテックのAutoMateである(2018年6月)。

同ツールは、IBM i向けの運用自動化ツールを発展させて開発されたものであるため、IBM iを含めて基幹システムや外部システムとの連携に強みをもつ。これに加えて、「自動起動トリガー」と呼ぶ独自機能を備え、特定のフォルダにファイルが追加されたらアプリケーションを起動したり、データベースで特定のコマンドが実行されたらタスクを起動するなどの多彩なシステム連携を実現する特徴もある。

同社では、RPAによる業務の自動化を進めるにあたって、まず管理部門とフジ・アメニティサービスに要望の提出を求めた。ほどなく140件を超える自動化の要望が寄せられたが、「このなかにはRPA化に適さないものも数多くありましたが、業務部門が協力的に動いてくれたのは経営層の働きかけが大きかったと考えています」と、杉本氏は次のように語る。

「システム室でRPAツールの調査を進めていたときに(2016年)、取締役の石本(賢一氏)から“RPAツールを検討したらどうか”という話がありました。石本は約10年前のパンデミック騒動の際の当社のテレワーク推進者で、その経験もあって、働き方改革の観点でRPAツールに早くから注目していたようです。当社がRPAツールをスムーズに導入できたのもこうした背景があったからで、RPAを会社全体にテンポよく浸透させるには、トップの理解が大きな力になると思っています」

各業務部門から寄せられた要望のなかには、IBM iに関連する案件のほかに、Excelに絡む案件が想像以上に多くあった(図表1)

 

 

たとえば、銀行の預金残高をネット経由で照会し、Excelに転記するような作業である。単純な作業とはいえ、同社では30行以上の金融機関と取引があるため、これを1日に数回行うだけでも、かなりの時間と労力を要する。

 

複雑な業務には
いきなり手を出さない

 

システム室では、提出された案件について、2018年6月から本格的にAutoMateによる開発作業をスタートさせた。

個々の案件のRPA化に際しては、初めに業務の内容についてヒアリングを行い、後は開発の最中に何度でも確認する形とした。

開発を担当するシステム室主事の長谷川麻衣氏は、「最初のヒアリングでは業務の流れの確認だけでなく、その工程が本当に必要か、手順の変更が可能かどうかを含めて尋ねるようにしています。思い込みで開発すると、ちょっとしたことでもRPAツールでは狙いどおりの結果を得られないことが多いので、業務担当者と話をしながら、聞きながら開発を進めている感覚です」と説明する。

また、RPA化のポイントについては次のように話す。

「案件として寄せられる業務のなかには複数の作業がつながって複雑になっているものも少なくありません。その業務をそのままRPA化してしまうと本番稼働させてから不具合が起きやすいので、まず業務自体を整理し、シンプルにできる部分だけにRPAを適用するのがポイントです。そうした整理作業は業務部門の人が行うのがベストですが、適当な人がいない場合は開発担当者が担当します。複雑な業務にはいきなり手を出さないこと、それがRPA化の鉄則だと考えています。

また、ツールの使い始めはタスクの設定だけで精一杯でしたが、現在は開発済みのものを部品化し、部品の組み合わせによって開発自体を効率化する取り組みを進めています。この部品化も、ロボットの開発をスピーディに行うポイントだと思っています」

 

長谷川 麻衣 氏  システム室 主事

時間削減効果は平均73%
1000時間以上を余力化

図表3は、本番稼働させたプログラムの一部である。

 

 

No.2の「戸建等住宅販売契約実績自動転記」は、IBM i上にある戸建て住宅のデータベースから販売契約済み物件の「販売日」や「引渡日」などを抽出し、Excelの一覧表に自動転記するロボットである。従来は、戸建て住宅のページを1件ずつ開いて目視で確認し、手動で記入していた。この手動作業に要していた時間は年間24時間、RPA化による自動化後の作業時間は6時間で、75%の省力効果がある。

No.12の「クレーム速報情報転記」は、賃貸マンション居住者のクレームを掲載するサイトから同社に関連する情報を抜き出し、IBM iへの登録を自動化するロボットである。従来は、個々のサイトにアクセスし、該当する情報を1件ずつコピー&ペーストしてIBM iに登録する作業を行っていた。この手動作業にかかる年間時間は520時間、ロボット導入後の作業時間は130時間で、これも75%の省力効果がある。

No.1〜No.27の全体で見ると平均73%の時間削減効果があり、年間1000時間以上を生み出す(余力化)など、RPA導入の高い効果が実証された。

 

ツールの特性を検証し
使い分けの検討へ

 

ここで、図表に「Aツール」が含まれている理由を説明しよう。

前述のように、同社ではAツールの利用をいったん保留にしたが、その後、IBM iに関連しない業務に適用したところ、効果を確認できた。そこで担当者をつけ、適用する業務を選びながらAツールによるロボット化を進めてきた。現在は、「AutoMateとAツールの使い分けを検討しています」と、杉本氏は述べる。

「Aツールは、ごく単純な作業に限って言えばAutoMateよりも開発しやすいのではないかと見ています。今後、当社全体でRPA化が進むとメンテナンスの数も増えてくるので、業務部門でできる作業は業務部門に任せたいとの思いです。Aツールは現場主導のRPA化に、AutoMateはシステム室主導のRPA化に、という使い分けができるのが理想だと考えています」(杉本氏)

この使い分けを明確にするために、同一の業務をAutoMateとAツールのそれぞれでロボット化し、両ツールの特性を検証する作業も進めている。

「RPAで開発したロボットを利用中のユーザーからはいずれも高い評価を受けています。そうした声をフォローの風と受け止め、業務の生産性を上げ、働き方改革を前進させるソリューションとして、さらに普及させていく考えです」と、杉本氏は抱負を語る。

 

[本記事はi Magazine 2019 Summer(2019年5月)に掲載されたものです。©i Magazine]

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